赤ちゃん連れのお母さん

飛行機の中や電車の中で、遠くから赤ちゃんの泣き声がして、

なかなか泣き止まなかったりしたら、

私、とってもハラハラする。

「お母さんきっと、ハラハラドキドキ、汗タラタラだろうなって。」

 

姿が見えたら傍に行って、赤ちゃんに声かけしたくなる。

「こんにちはー!!!」

そしてお母さんにも、「だいじょうぶよー。」

 

通ってきた道だから言えるのかもしれないけれど・・・。

 

劇作家、演出家、俳優、小説家の前田司郎さんのコラムから

 

”お母さんを責める前に

飛行機で赤ん坊を連れた女性と隣り合った。

僕は窓の外を見たり、本を読んだりして過ごしていたが、女性は赤ん坊を胸の前に抱え、

荷物を座席の下に入れるのもひと苦労で、まるで甲冑を着て飛行機に乗っているようで、

しかもその甲冑は生きていて、猫のように勝手に動くのだ。

おせっかいにならない程度を見計らって僕も手伝ったが、

その度に「すいません」と謝るように丁寧にお礼を言われた。

赤ん坊は無慈悲な乱暴者で、髪を引っ張ったり、前の人の頭を触ろうとしたり、

おんぶ紐を外そうとしたり、おっぱいを欲しがったり、やがて泣きだした。

事情を知らずに泣き声だけ聞けば、お母さんの監督責任を追求する人もいるだろう。

どうか遠くのお客さん怒らないでください。

彼女は全く休む暇もなく、二人分の荷物を持って降りて行ったが、全く頭が下がる

お母さんてものは、こんなにも大変なのか。その片鱗をみた思いである。

たかだか数時間のフライトだったけど、この暴君と二十四時間付き合う母親は大変な忍耐だ。壮大な愛である。

もし家族や行政のサポートも受けられず一人で赤ん坊を育てないといけない環境でいたら、

おかしくなってしまうのも仕方ないかもしれない。

そういったお母さんを責める前に、もしくは子供を産めや育てやと言う前に、

まずは全てのお母さんにもっと感謝すべきですね、昔赤ん坊だったことのある人は。”

東京新聞「風向計」より

 

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