先入観

先入観を持たないで人と会うようになってきたのは、

北京の会社でおよそ2年間で300名ほどの採用面接に立ち会うお仕事をさせて頂いてからだと思います。

 

履歴書の写真、出身大学、志望動機、今までやってきた研究、仕事内容を読んで、

その方の人となりを想像し、面接に臨むより、

転職の理由、将来の目標、ご本人が思っている自己像、ご自身の長所、短所、成功体験、

失敗から学んだこと、育った環境など、こちら側からの質問にどんなふうに答えていくのかを

観察するほうが、ずっとずっと重要だということに気づいたからです。

 

噂話、お仕事やステータスなどからの先入観を持たずに、新しい人と向き合うほうがとても楽で、

そして楽しいように思います。

また同時に見た目や表面上の行動、気を使って話す言葉などをすーっと通り越して、

その人の本質を見抜こうと努力します。

 

アートセラピーをお仕事にしてからは、絵が語るものを一番信じるようになりました。

その方が描く絵には素直に心が現われます。

 

お子さまの絵の読み解きの時には、お母様にお話しをおうかがいします。

 

お友達に暴力を振るう、ある低学年の男の子のケースですが、

お母さまは見た目、アナウンサーのように容姿端麗な方、

にこやかでとても丁寧な言葉使いでお話しなさいます。

持ってきて頂いたお子様が描いた絵からは

・喘息    ・ 母親を心配している    ・母親は疲れ果てている     ・恋愛問題?

などが出てきます。

1度目の面接ではこれらを告げる自信がなく、お話を伺うだけで、

もう一度家でじっくり絵の分析をします。

 

13歳くらいを境に、絵の分析は大人と子供で全く違ってきます。

お子様の絵は本人のことだけではなく、家族、特に両親に訴えるものが細かくたくさん出てくるので、

とても時間をかけてじっくりと読み解きます。

 

2度めの面談で、思い切ってお母様に尋ねてみました。

「お子様はとても丈夫そうに見えますが、喘息ですか?」

「あ、そうです、何度も入院を繰り返しています。」

「実は・・お母様がとても疲れていると読み取れるのですが・・疲れてはいらっしゃらないようですね・・・」

 

「実は今、最悪で・・・・あのう、自殺未遂を・・・・・。」

お母様は離婚されていて、現在お付き合いのある男性との間でトラブルが有り、

お子さまの前で多量の薬を服用してしまったとか。

8歳のお子様が近くに住んでいる親戚の家に電話をし、親戚の人が慌てて飛んできて病院に運ばれたとのこと。

 

そののち、お母様は恋愛問題をしっかり整理され、

お子様の状態も徐々に安定してきました。

 

絵が訴えるものは様々です。

お子様の言葉にならない不安、苦しみなども現れてきます。

 

お子様の行動だけに焦点を当てている限りでは、お子様がずっと患者になってしまいます。

医療の現場では受診された方があくまで患者として扱われ、治療者からの不必要な投薬が続く場合もあります。

お子様の不安を早く取り除いてあげる事が重要だと私は思います。

 

また、元気(そうに見える)、明るい(く振舞っている)、

きちんとしている(身だしなみに気をつけている)といった、

見かけでは悩みなんてなさそうな方が、お子さまの相談に来られた際に、お話し始めると、

実は抱えきれないほどの大きな悩みを抱えていた、と言ったケースがとても多いです。

 

お子様はとてもデリケートです。

ご両親の問題をダイレクトに感じています。

 

「先入観を持たない、見かけで判断しない。」

いつも自分に言い聞かせています。

 

 

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